まちおこしは好きですか?/北高まちおこし部はまちおこさない

マンガ

北高町おこし部はまちおこさない(出倉なお)

人口7万人の町、北海道象々市。北高文芸部はダラダラすごしていた。しかし、ひょんなことから“まちおこし部”へと強制的に改部させられることに。顧問の明智、部長の工藤、部員のアララギたちは部室の平穏を守るために、「アンチ青春」を掲げる。しかし、悪そうな大人の出現、ライバルの登場、寂れゆく町の住人たちが抱えている諸事情によって、3人はとことん青春せざるをえない状況に……。(扶桑社ホームページより)

熊野堂
熊野堂

まちおこし、女子高生とくればキラキラした青春もの、と思いきやまったく違います。アンチ青春、でも冷笑主義ではない。地方の実態も良く描かれています。キラキラに憧れている人にこそ、ぜひ読んでもらいたいリアルまちおこし、おこさない。

お薦め度 

ポイント

・まちおこし部

・頑張っている人、頑張らない人

・地方の実態

・パロディ天国

まちおこし部

 いかにもありそうなクラブです。北海道の田舎町出身の起業家が地元に1億円を寄付し、「高校生にまちおこしをさせてみては」と提案したこから、各高校に「まちおこし部」が強制的につくられます。冒頭からマンガ的であり、リアルでもあります。

 まちおこし部といえば、意識高いキラキラした高校生の集まりを想像しそうで、実際にそういうキャラクターも出てくるのですが、主人公の学校は真逆。「文芸部」と称して、ダラダラマンガを読むだけのクラブが、勝手に「まちおこし部」に変えられます。何とかやりすごそうとしますが、そこにまちおこしに大事な要素がある、のかもしれません。

 

頑張っている人、頑張らない人

 キラキラしている人は頑張ってます。「みんなの暮らしやすいまちをつくる」。でも、そのみんなとは「頑張っている人」。今を変えるためには、新しい何かが必要だ。キラキラ流の考えであり、一定数の人が賛同できる話ではあります。でも、主人公は思います。「頑張っていない人なんているのか」。これは今、まちおこしに奮闘している高校生や大学生に考えてほしいテーマではありますね。

 何かスターを生み出すのがまちおこしなのか。頑張っている人が報われるのはいいことだと思います。それに頑張っていない人はいるか、と言われたら僕もいるとは思います。でも、それは個人の資質とかではなく、社会の仕組みのせいかもしれない。そっちを改善して、みんなそれなりに頑張れるまちにするのがまちおこし、なのかもしれません。

地方の実態

 寂れる商店街、降ってわいた1億円にむらがる大人たち。地方のリアルが赤裸々に描かれます。その中で、映画館のないまちの描写もリアルです。僕の出身地も映画館はありませんでした。最寄りの映画館まで、電車でも車でも1時間以上。往復すると、映画を観ている時間より移動している時間の方が長い。しかも電車は1時間に1本なので、タイミングが合わないと待ち時間も長い。

 地元を出て、映画館のあるまちに引っ越すと、本当に気軽に映画が観られるようになりました。まあ、最近は結構値段が高いので、配信で観る機会が多いですが。都会で生まれ育った人には、まったく想像もしない環境でしょうね。実際、僕が映画館で初めて観たのは中学生の時でした。

パロディ天国

 北海道のある人口7万人の町が舞台。その名も「像々市」。出身の起業家はZOZOTOWNの前澤氏を連想させる神園貴文(ホリエモンも混じっている)。セリフの中には「あなたの感想を聞いているんじゃない」とあったり、バスケ部のキャプテンが「赤木」だったり、ちょいちょい遊び心が入っています。帯には北海道の学園ものといえば「獣医学部」(昭和)、「農業高校」(平成)、令和は「まちおこし部」だとあります。昭和の獣医学部は熱中して読みましたね。もう北海道大学に行きたくなるくらい。あれで、進路を変えた人はそこそこいたはず。さて、この作品は現代っ子にどう届くのか。大人には結構刺さりました。

編集後記

 こうきたか、とかなりいいところを突いた作品。作者は地方の方なのでしょうか。描写はかなりリアルですね。まあ、僕の住んでいる町は、人口7万人もいないですけどね。和歌山県で10万人を超えているのは、県庁所在地の和歌山市のみ。第2の都市、田辺市でも6万6千人ほどで、像々市より少ないです。そもそも2万人を超える町は少数派ですから。地方を知りたければ、北海道もいいけど、和歌山もよろしくお願いします。

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