新聞を読んでますか?/異端

実用書

異端(河原仁志)

西日本新聞「飯塚事件」、琉球新報「沖縄防衛局長オフレコ発言」、秋田魁新報「イージス・アショア」……
7つの物語が映し出す異端者たちの生きざま

新聞の再生はここから始まる

――そこには私がこの業界に足を踏み入れた頃わずかに残っていた野生の香りと、少し大げさに言えば狂気のような空気があった(旬報社ホームページより)

熊野堂
熊野堂

マスゴミ、オールドメディア。いつの間にか悪者になった新聞。でも、本当にそうでしょうか。報道に興味のある人、世の中のどの情報が正しいのか困惑している人は必読です。

お薦め度 

ポイント

・地方紙対政府

・新聞とは何か

・法に触れなくても、おかしいと問える

誰のために取材しているのか

地方紙対政府

 地方紙は地域のことなら、「そんなことまでニュースになるの」ということまで記事にしているし、裏の事情にも詳しい。でも、政府との人脈はほぼありません。政府主導で動くことがらを地方にいながらキャッチし、チェックするのは難しい。でも、できないわけじゃない。

 秋田魁新報は、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の地元配備問題を徹底的に取材し、矛盾点を追求、計画は白紙になりました。自分たちの暮らす場所がミサイルの防衛拠点になる。それなのに政策決定は東京。秋田魁は東京に支社もあるが、防衛省や首相官邸まで人脈はなありませんでした。本当に秋田にこのシステムがいるのか。そもそもなぜ秋田なのか。取材していくと、日本を守るシステムのはずが、実は政府主導ではない。米国が自国を守る盾として、日本を利用しているという構図が浮かび上がります。

 この問題、うちの会社でも扱えるか考えてしまいます。「国のやることは間違いないから従え」という論理が染みついている人は意外と多い。行政が正しく、民間は間違っているという理屈を並べる人も珍しくない。行政を取材する記者も、行政の論理に引っ張られていくケースがたびたびあります。もちろん、行政が正しい場合も多いので、普段はそれほど不都合ではないかもしれない。でも、市町村、県、国と対峙することも必要です。

 東京で決まった政策であっても、それが形になるのは全国、地方の小さなまち、人々の暮らしこそが現場。遠い話でも、大きすぎる話でもない。そこに切り込んでこそ、地方紙の価値を発揮できるはずです。

新聞とは何か

 特ダネだけが新聞の価値ではありません。文春が正義というわけではないように。岩手日報は未曽有の大災害、東日本大震災で地方紙の力を発揮しました。どこの避難所に誰が避難しているかという避難者名簿の掲載です。通常ならニュースでも何でもない。ただ、名前が並んでいるだけ。でも、この時はそれこそが地域住民の求める情報でした。

 そしもう一つ、犠牲者の物語を掲載したのも大きい。犠牲者は6000人と丸めて語られるだけでいいのか。そんな疑問から、遺族への聞き取り取材を始め、小さくても一人一人を紹介していったそうです。犠牲者は単なる数字ではありません。そこに輪郭をつける。これも地方新聞の大きな役割なのです。

法に触れなくても、おかしいと問える

 選挙違反を取材する中国新聞の人海戦術はさすが地元紙。関係議員全員に直当たりしていきます。地方紙と全国紙では、人員に圧倒的な差はあるが、こと地元紙の担当エリアだけの局地戦なら地方紙が圧倒的に優位に立てます。そもそも全国紙は地方支局の人員をどんどん減らしており、意欲がある記者が赴任することも少ない。本来ならもっと独壇場になってもおかしくないのです。

 中国新聞の報道を検察が評価する。「検察の仕事は法律と証拠でしか評価されない。ジャーナリストは法律に触れていなくても、世の中におかしいと問うことができる」。いつのまにか、警察や役所のお墨付きがないと報道できなくなっている新聞。でも、それだけではないですよね。それが読者が求めていることですよね。このエピソードは結構刺さりました。

誰のために取材しているのか

 誰のために取材しているのか。シンプルに、読者や地域住民のためですよね。その基本をキャリアを積むほど忘れがちになる。それが世代を超えて受け継がれ、今のオールドメディア不信につながっているのかもしれません。読者の代わりに現場に立ち、読者の代わりに権力者の問題点を追及し、読者に分かりやすく伝え、考える機会をつくる。SNSで人をあおり、アクセスを稼ぐだけの自称ジャーナリストやインフルエンサー、週刊誌にはできないことを、地方紙ならできます。やらないと存在意義がない。どんな仕事でも誰のため、の基本が大事ですよね。

編集後記

 記者の仕事を25年くらいやっていますが、全国の地方紙の活躍にとても刺激を受けました。でもこれが「異端」であるうちは、まだまだですね。僕の視点では全然異端ではない。むしろ、本来の姿なので。とても刺激を受けた本ですが、記者以外の人が読んでも面白いのかな。それがちょっと心配です(笑)

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