東京物語(1953年、日本)
年老いた親が成長した子供たちを訪ねて親子の情愛を確認し合うという題材が、小津の手にかかるとどうなるかを示す傑作。何気ない言動が教える各人の生活、思いがけない心情の吐露と発見、そして何事もなかったかのような人生の悲哀と深淵が見事に描かれている。(松竹公式ホームページより)

もう70年以上前の作品だけれど、全然古くない。いや、まあいろいろ古いけれど、現代に通じるものがあって、作品としては古さを感じない。かなり地味な作品だけれど、世界中から評価される理由がよく分かる。小津作品を見たことのない人は、まずこれからどうぞ。
お薦め度
戦後8年
戦後まだ10年も経っていない日本が舞台。でも、現代と社会そのものはそんなに変わりません。もちろん、時代を感じることは多々あるけれど、根本的なものはそんなに違わない。戦争を知らない世代は、戦争をとても特殊な時代と見てしまうし、実際そうした要素はあるけれど、人間の営みはそう変わらないのかなと。戦争で亡くなった息子(義理の娘からは夫)の話が出るくらいで、戦争の影はあまり感じない。それよりオールウェイズ的な昭和の温かさが案外なくて、令和的な冷たさの方を感じます。現代の人が見ても違和感を感じにくいのはそのせいかもしれません。
距離
ただし、距離感はさすがに現代と違います。主人公の老夫婦が住む広島・尾道から、東京まで夜行列車での移動です。「昨日出たら、今日はもう東京」。いやいや、結構かかってますよ。新幹線なら4、5時間あれば行けるでしょう。そのくらい、地方から東京は遠い。
僕の住む和歌山からは今も都市部は今も遠い。出身の串本から県庁所在地の和歌山まで2時間半かかる。それだけかけても県内から出られないという空間。そこから新大阪まで1時間。そこからなら、東京でも福岡でもそんなに時間をかけずに移動できるけれど、そこまでが大変。
でも、多くの人がそんな都市部に出て行ってしまって、帰って来ることはあまりない。新たな東京物語は今も量産されています。
親孝行してますか?
せっかく尾道から東京に出てきた親に対し、子どもも孫も結構冷たい。医師の息子も、美容室を経営している娘も自分の生活に追われている。豊かさを求めて東京に出ていったはずが、それなりの生活はできているものの、決してゆとりある豊かな暮らしではない。もてあまして、熱海に行ってもらうくだりなんかは、結構残酷なのに淡々と描かれます。
これって、他人ごとではないですよね。僕も社会人になって親や祖父母に孝行した場面は本当に限られています。映画を観て「ひどいな」というより「そうなってしまうよね」と思ってしまう部分があります。孫はもうちょっと優しくすればいいのに、親の影響を受け、孫も何だか可愛くない。この孫が親を大事にするとは思えない。そういう親子の連鎖を連想させます。
小津ワールド
小津ワールドが世界で評価されているということは、大家族時代から核家族化、地方から都市部への流出などこの感覚が理解されているということですよね。昨年は小津の生誕100年ということもあり、さまざまな場面で小津が再評価されました。「パーフェクトデイズ」の高評価も小津人気をさらに高めました。
でも、これはかなりコアな映画ファンの話だと思います。まず国内で今、一般の人が小津作品をそんなに見ているとは思えない(時代に合った今の作品を観るのはある意味普通ですし)。海外でもそれは変わらないでしょうか。ネットフリックスなどで古い映画も見られる時代ですが、どれを配信するかは配信会社次第。見たい映画いつも配信されているわけではありません。東京物語もネットフリックスでは配信されていないと思います。
古典的な作品のうち、さらに次代に受け継がれていくのはどの作品か。リアルタイムで見た作品から古典になっていく作品が生まれるか。映画好きとしては、時代を超えてウォッチしたいと思います。
編集後記
今年も地方から都市へ、若者がどんどん出ていいきました。地方創生とか、田舎暮らしとか言われて多少価値観は変わってきてはいるけれど、地方から都市への人の流れはとどまるところを知りません。一度都会で暮らし、学び、地方に帰って来るサイクルができればいいのでずが、一方通行になりがちです。令和にどんな「東京物語」が生まれるか。いずれ、現代の家族を描く作品が出てくると期待しています。