分かり合えないことを諦めますか?/復讐のレクイエム

アニメ

機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム(2024年、ネットフリックス)

宇宙世紀0079年、ジオン公国が独立戦争を始めてから11ヵ月後のヨーロッパ戦線。ザクIIの凄腕パイロット、イリヤ・ソラリ大尉は、地球連邦軍の恐るべき新型モビルスーツ”ガンダム”に立ち向かう。(ネットフリックスホームページより)

熊野堂
熊野堂

ガンダムの新シリーズにはついていけないこともありますが、これは大丈夫。舞台は1年戦争で、オールドファンも納得。その上、ガンダムを知らない人も楽しめる。戦争とは何か考えたい方に。

お薦め度 

ポイント

・ガンダムらしさ

・多様性の時代

・分かり合えないことから

・賛美しない

ガンダムらしさ

 ガンダムらしくもあり、らしくない作品。フルCGは今どきのゲームのよう。抵抗がある人もいるかもしれませんが、僕はすぐに慣れました。すごいリアルで、モビルスーツの質感はこっちの方がよく伝わる。重量感とか、スピード感とか。

 でも、そんなことではなく、まずストーリー。はっきり言って、ガンダムでなくても成立する物語。戦争物のある意味、王道的サブストーリー。第二次大戦中でも、架空の過去、未来の戦争でも。この物語は成立します。

 でも、ガンダムらしい。正義対悪の図式でない、勧善懲悪でないというベースはしっかり守られています。何より、ジオンから描くことで、本来主人公の搭乗機で、作中でスーパーな活躍をすることが多いガンダムが、敵側から見れば理不尽な悪魔のような存在であることを強く印象づけています。この辺の描き方にガンダムらしさを感じます。「ポケットの中の戦争」とちょっと似ているかもしれません。

 らしくないのは、戦争の主義主張、政治的な話が皆無なこと。でも、末端の戦場が舞台で、そこでは命令されて戦う兵士しかいない。なので、ガンダムらしくないけれど、やはりガンダムらしいリアリティーがあります。

 地球が舞台なのはガンダムらしい。宇宙時代の話ながら、キーになるのはやはり地球。実在する国、地域を舞台にしたガンダムのリアリティーは健在です。

多様性の時代

 ガンダムの主人公と言えば少年が定番。戦いたくないのに、無理に巻き込まれ、戦わざるを得なくなる(違うパターンも多々ありますが)。ベースは少年の成長、葛藤が描かれます。

 今回の主人公は女性で、しかもシングルマザー。夫を亡くし、子どもを両親に預けて戦っている。かつてないパターンです。少年が主人公の場合、ヒロインとの悲恋(だいたい悲恋)が描かれますが、そういうロマンスモードもなし。そして、その設定が物語に深みを与えるのに役立っている。これを機会に、今までガンダムを見たことのない人も見てもらえたらうれしいです。

 ただ、他の登場人物はほとんどパターン通り。熱い部下とか、敵味方問わず助けたい医師、悪い人ではないけど大物感はない上官など、過去のシリーズもしくは他の作品に必ず出てくるような既視感のあるキャラクターが多い気がします。男女、年齢、人種など多様性に配慮してバラバラなのも今っぽい。

分かり合えないことから

 ガンダムらしさを感じるのは、ストーリーを通じた「分かり合えなさ」。もう少しで分かり合えるのではというところまでいきながら、そんなに簡単には分かり合えない。理不尽な最期が待っている。この辺はシリーズに通底するテーマかもしれません。

 モビルスーツで戦っていると、本来相手の顔は見えない。剣と剣で戦っている時代、銃を突きつけ合う時代はまだ相手を殺している感覚があったはずです。でも、モビルスーツだと一対一で戦っていても、その向こう側に人がいる感覚が薄れてしまいます。そこで、ガンダムシリーズでは、通信や直接会うことで、相手が同じ人間であることを否応なく突きつけます。

 今回のシリーズでいえば、主人公が敵側(連邦)の基地に忍び込み、連邦の兵士と出会う。そこにはガンダムのパイロットもいて、偶然話すことになる。自分の子どもと大して歳の変わらない少年がガンダムに乗っている(ガンダムのパイロットは少年はここでも生きている)。子を思う親、親を思う子ども。共通項が生まれるけれど、そのつながりを壊してしまうのも人間。分かり合えそうで、分かり合えない。でもそこで諦めたら、永遠に分かり合えない。哲学的なテーマが根底にあるこの作品は、やはりガンダムです。

賛美しない

 死を賛美しないのもガンダムらしさです。反戦がテーマのドラマでも、結構死が賛美される。平和学習でも「兵隊さんたちの苦労があって、今の平和があるんだ」と教える。死を賛美しないでほしい。戦争を賛美しないでほしい。

 作中で、死んでしまったキャラクターはもう戻らない。誰もよくやったと言わない。死んだけど報われた的な話にならない。それがガンダムの良さだと思います。死を賛美する人は間違いなく生きている人です。そして、安全なところにいる人です。そんな人に踊らされて死地に行くことがないように、大事な人を死地に送り出さないように。戦争を賛美する物語には注意しましょう。

編集後記

 想像していた以上にガンダムらしく良かった。1話が短い(30分未満)のも見やすかったです。これが世界で見てもらえるとうれしいけれど、反応はどうなのかな。ちょっと地味な作品だし、ガンダムのタイトルがハードルになっているかも。でも、じわじわ浸透してもらえるとうれしい。続編もぜひ作ってほしい。

 

 

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