八犬伝(2024年、日本)
江戸時代の人気作家・滝沢馬琴は、友人の絵師・葛飾北斎に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。
里見家にかけられた呪いを解くため、八つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語だ。北斎はたちまち夢中になる。そして、続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描いた。
北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、義理の娘から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとはー。(映画公式サイトより)
八犬伝は好きな題材。豪華俳優陣が出演しており、期待して観ましたが、うーん。ちょっと残念なでき。つまらないことはないですけど。配信待ちか、でも映画館のスクリーンで観る方が面白いかな。八犬伝、時代劇好きの方にお薦め。
お薦め度
和風ファンタジー総本家
ファンタジーの世界も多様化が進んでいます。一昔前は、中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界、「指輪物語」を流れを組む世界観が主流でしたが、中世ペルシアを題材にした「アルスラーン戦記」、中華ファンタジーの「後宮小説」「薬屋のひとりごと」、中華アジア風の「十二国記」、和風の「八咫烏シリーズ」など、人気作品が続々と生まれています。
そんな中、和風ファンタジーの総本家は八犬伝。江戸時代に書かれた作品ですが、僕も小学生の頃に夢中で読みました。それだけでなく、仲間を集め、巨大な敵と戦う構図は、さまざまな物語に受け継がれています。八犬伝を知らない人も、何となくそのDNAは受け取っているはず。未読の方は、映画を観てからぜひご一読を。
虚実混合
映画は八犬伝の産みの親、滝沢馬琴の創作への葛藤を描いた物語。その合間に創作中の八犬伝が描かれるという構造で、現実世界(史実)と物語世界(虚)が交互に登場します。さらに、馬琴は現実の世界は正義が常に勝つわけではないけれど、だからこそ虚の世界では正義の物語を貫きたいと考えています。そうすることで、虚の正義がやがて実になるのではないか。馬琴の生きる世界と八犬伝の物語による虚実、正義が通じない現実と通じる物語世界の虚実。この二重構造が大きなテーマにつながっています。
もっとも、正義とは太陽のように一つではなく、星のようにあちこちにあります。信じている正義と逆の方向に、別の正義を信じている人がいる。これが世界で、だからこそ争いはなくならないのかなと。八犬伝の物語の中でも、八犬士(正義)と玉梓(悪)の構図ですが、玉梓にだっていい分はある。そんなことも思いながら観てもらえたらいいなと思います。
馬琴と北斎
滝沢馬琴と葛飾北斎に交流があったのは史実のようですね。馬琴の挿絵を北斎が手掛けている。歴史に残るゴールデンコンビです。北斎は長野県の小布施町に記念館があって、訪れたことがあります。北斎は当時としてはすごい長生きで、たしか90代まで生きています。当時は平均寿命が50歳未満だったはずで、驚異的です。しかも、あちこち転居を繰り返している北斎ですが、80代で江戸から小布施に移り住んでいます。そして、江戸に戻っている。新幹線も車もない時代。どんな交通手段を使っても結構な距離に感じますが、江戸時代に超高齢者が移動している。北斎の創作のエネルギーはすごい。その北斎と刺激し合える馬琴の才能もすごい。この2人をもっと深めたら映画にももっと深みがましたのではと思ってしまいます。
豪華?もったいない?
馬琴に役所広司、北斎に内野聖陽、馬琴の妻に寺島しのぶ、義娘に黒木華、馬琴の息子に磯村勇斗…。馬琴周りだけでも豪華な俳優陣がそろっています。いずれも主演を張れる人ばかり。八犬伝パートにも栗山千明、河合優実、土屋太鳳、板垣李光人。さらにちょい役で中村獅童や尾上右近らも登場。中堅、新進気鋭の若手までずらり。
現実パートの演技は確かにいい。みんな、それぞれの味を出して引き付けます。でも、物足りない。役者のせいではなく、脚本というか物語の構造に問題があるのでは。長いあらすじを観ているようで、深みが足りないのです。今、配信の世界ではふんだんに予算をかけて面白い作品を作っています。本来は映画の世界が担っていたことですが、テレビ同様、映画も差を付けられるかもしれません。
今売り出し中の河合優実の使い方もこれでいいのか。単にあの人気俳優も出ていますの宣伝にしかなっていないのでは。これだけ豪華メンバーをそろえながら、もったいないつくりになっているなというのが正直な感想です。
編集後記
八犬伝好きとしては、八犬伝の創作背景が知れるのは楽しかったし、決してつまらない映画ではありません。現実パートをもっと深めてもらえたらと思いました。パンフレットも非常に興味深く読ませてもらいました。それにしても、ちょっとしか出てこなくても河合優実は存在感があります。板垣李光人もあのきれいな感じを生かし切った配役ではありました。役者の演技合戦を楽しむという見方もありかもしれません。