暑いのに仕事しないとだめですか/官僚たちの夏

小説

官僚たちの夏(城山三郎)

「国家の経済政策は政財界の思惑や利害に左右されてはならない」という固い信念で通産行政を強引、着実に押し進め、次官への最短コースを疾走するミスター・通産省、風越信伍。高度成政策が開始された60年代初めの時期に視点をすえ、通産省という巨大複雑な官僚機構の内側における政策をめぐる政府・財界との闘いと、人事をめぐる官僚間の熱い戦いをダイナミックに捉える。

新潮文庫カバーより
熊野堂
熊野堂

暑い夏に読むには暑苦しいかもしれませんが、物語はシンプルで意外とサクサク読めます。昭和の作品で、もちろん昭和感満載ですが、決して古くはない。現在にも通じる問題が描かれています。ハードな仕事をしている人、あと日曜劇場が好きな人は相性がいいかも。

お薦め度 

ポイント

24時間戦えますか?

・働き方改革

・クールビズ

・日曜劇場

24時間戦えますか?

 「24時間戦えますか?」。栄養ドリンクのCMで堂々と全国放送されていたキャッチフレーズ。1989年の「新語・流行語大賞」にノミネートされました。今だったら完全にブラック企業扱いですよね。物語の世界はさらに昔、高度経済成長期ですが、「24時間戦えますか?」の世界へまい進し、すでに実践している人たちがたくさん出てきます。

 官僚の仕事がどれだけ大変かは分かりませんが、理不尽なことも、頑張っても報われないことも多い。それでも、自分たちが国を動かしているという自負があったのかもしれませんが、最近は官僚希望者が激減しているようでね。官僚だけでなく、地方公務員も人手不足、人材不足のようです。現在なら「官僚たちの冬」の方がリアルかもしれませんね。

働き方改革

 働き方改革という言葉が一気に広まりました。「働かせ改革じゃないか」という声もありますが、働き方を考えること自体はいい。でも、それだけでは足りない気もします。ワークライフバランスも(言葉は)定着しましたが、ワークとライフは別々のもではありません。全てライフの一部にすぎない。「働く」の比重が高い時もあれば、「子育て」「遊び」「学び」の比重が高い時もある。ライフステージや生き方によって、人それぞれで万人のベストのバランスはないはずです。

 作中では「24時間戦えますか」を地で行く官僚と対照的に、新時代の官僚として遊びを充実しながら、仕事もできる人物が登場します。官僚を辞めて、親戚の会社に入り、週休2日制や長期有給休暇の取得を実践しようかと考えるような人物です。作品発表当時としてはかなり先進的な考えだったのではないでしょうか。

 ちなみに、僕は週休2日制の会社で働いたことはないし、有休も年0~3日程度です。周囲からは「24時間働けますか」グループ認定でしょうね。

クールビズ

 当時と現在の大きな違いは、ビジュアルにも現れています。主人公は上着もネクタイもつけず、ワイシャツの襟ボタンをはずし、両腕の袖をまくりあげています。これが省庁の中では異質で、波紋を呼ぶレベルです。今ではノーネクタイは当たり前で、もちろん上着も必要ありません。冷房が効いてる空間では、上着とネクタイがあっても何の支障もないですが、それでもほとんどの人が外しています。

 でも、官僚はそこまでラフになっていないし、「こうでなければ」という観念にしばられているようです。僕の知人がある省庁にTシャツ、短パン姿で入ろうとしたら止められたそうです。せめて、シャツをと。これはビジネススタイルではないのでクールビズ認定されませんでした。とはいえ、彼は官僚ではないし、省庁に呼ばれて出向いただけなので、服装のことをとやかく言われる覚えはないと思います。この辺、主人公だったら大歓迎してくれたはずです。

日曜劇場

 物語の描き方、展開はまるで日曜劇場。まあ、日曜劇場をよく見ているわけではないので、違うかもしれませんが、イメージとしてはそんな世界です。どうも、実際ドラマ化され、日曜劇場で放送されたそうですが。きっとイメージに合ったドラマになったことでしょう。

編集後記

 僕が生まれた年に発刊した小説なので、もう50年前の作品。当時の社会課題の答え合わせをするような面白さもありました。でも、課題は案外変わっていなくて、50年たっても日本社会は成熟していないのかなと思いました。まあ、50年生きても成長できていない僕が言うのもなんですが。

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