分断、格差、時代が変わっても差別はなくらないのか/非色

小説

非色(有吉佐和子)

色に非ずー。終戦直後、黒人兵と結婚し、幼い子を連れてニューヨークに渡った笑子だが、待っていたのは貧民街ハアレムでに半地下生活だった。人種差別と偏見にあいながらも、「差別とは何か?」を問い続け、逞しく生き方を模索する。1964年、著者がニューヨーク留学後にアメリカの人種問題を内面から描いた渾身の傑作長編。

河出文庫カバーより
熊野堂
熊野堂

和歌山県出身の作家による傑作長編。人種差別って日本にいるとあまり感じないかもしれません。いや、感じていないのはする側だからか。差別とは何か。と言っても、重苦しい話ではありません。独特のユーモアもあふれる愛すべき作品。ぜひ読んで、考えてみて。

お薦め度 

ポイント

・差別はなくせませんか?

・日本での差別

・色ではない

・理想像

差別はなくせませんか?

 アメリカは自由の国人権意識の高い国科学的な国。そんなイメージを持つ人が多いと思いますが、今も黒人差別が根強く残っています。建国時、黒人は奴隷でした。リンカーンの奴隷解放宣言があり、奴隷ではなくなりましたが、白人と同じかといえば、そうでない場面も多いようです。黒人が白人警察官に射殺され、異を唱える運動が起こる。2000年代に入っても、こんなことが起きています。

 今年は世界的に選挙が多い年、な気がしますが、アメリカも大統領選挙ですね。「もしトラ」という言葉が普通にニュースで使われています。選挙では黒人票の行方が勝敗を大きく左右します。そのため、黒人にいかに投票させないかを考える陣営もあるほどです。アメリカの白人保守層が恐れること。それは2045年にも白人の割合が50%を切る見込みとの人口予測です。白人は票数で黒人に勝てない。今までみたいな無茶はできなくなる。今度は白人が迫害される。差別してきたからこそ、差別される恐怖を感じているのかもしれません。

日本での差別

 日本では人種差別はあまり感じないかもしれません。作中では笑子と黒人兵の結婚はセンセーショナルに受け取られます。そして、生まれた子どもは色が黒く、近所の子どもからいじめられます。今はそこまでではないでしょうが、黒人、白人に限らず、外国人との差別、距離みたいなのは感じる人が多い気がします。そして、西洋系より日本と同じ東洋系の外国人に差別意識(日本の方が優位的な)を持った人は確実にいます。

 表立って、堂々とそれが正義と思い差別する層は現代にもいます。「私は人種や国籍や職業なんかで差別しない」と思っている人も、実際に近所の人、クラスメイトだったら何の問題もなく受け入れられる人も。差別されている人が家族になったらどうでしょうか? そのスタンスを貫き、受け入れられるでしょうか?

 人種の問題だけではありません。知的障碍者、発達障害の子どもを露骨に差別する人は少数派でしょう。でも、自分の子どものクラスにいたら、その子と自分の子が同じ班だったら。果たして快く受け入れるでしょうか。

色ではない

 差別は単純に色だけで起こっているのではありません。白人特有、黒人特有の人格なんてものは存在しません。笑子の夫はアメリカでは無気力で疲れ切っていますが、黒人が怠け者だからではありません。日本時代の夫は紳士的でした。

 ブルーハーツの「トレイン・トレイン」には「弱いものが弱いものをたたく」という歌詞がありますが、差別はまさにそう。作中、白人の中でもユダヤ人、イタリア人、アイルランド人は差別されています。黒人はプエルトリコ人を最下層の人種とすることで尊厳を守っています。

 金持ちは貧乏人を軽んじ、頭のいいものは悪いものを馬鹿にし、要領の悪い男は才子を薄っぺらだといい、美人は不器量なものを憐れむ。人はさまざまな場面で自分以下のものを設定し、自分はより優れていると思いたがる。では、こんな差別がなくなる日はくるのでしょうか。

理想像

 最近よく聞くインクルーシブ。作品中の長女の作文「わたしの家族」が秀逸です。お父さんは黒人で、お母さんは黄色人種の日本人。お母さんは英語を上手に話せるけれど、RとLの発音が苦手。お母さんは日本語で叱ることがあるけれど、日本語を一つも知らない私はその瞬間だけ日本語が理解できる。英語も日本語も人間の言葉だからでしょう。

 アメリカの黒人は300年前にアフリカから渡ってきて、私の家は8代目に白人が10代目に黄色人種の血が混じった。だから私と妹はあまり似ていないけど姉妹。なんて素晴らしいことでしょう。

 といった内容です。日本でいじめられていた長女もアメリカでは楽しく過ごし、賢く育ちます。この作文はまさに差別を超えた世界。子どもの目を通し、アメリカを皮肉っている箇所もあるのですが、その描き方も秀逸です。作者のユーモアセンスがあふれています。

編集後記

 これは面白い。少し前にNHKでも取り上げられるなど話題になった作品。人を分けるものは色ではない。では何のか。60年も前の小説がいまだに古くならないのは、残念ながら人の世がなかなか変わらないから。文体も読みやすく、最近の小説といわれてもきっと気づかない。この差別を過去のものにするため、私たちはどうすればいいのか。考えるヒントが詰まっています。

 

 

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