面白いコラムが読みたい

実用書

「春秋」うちあけ話(大島三緒)

見出しも署名もない日経朝刊1面下の「春秋」は、社説のファミリーで批評精神が命。大上段に振りかぶらず、読者の目を引きやすい導入で、イキのいいネタを手早くーこの550字のコラムが生まれるまでを、筆者が執筆した「春秋」を引きながら、日々の呻吟(しんぎん=苦しみうめくこと)ぶりとともに明かします。実践的な文章術の本としてもおすすめです。

本書カバーより

私も書いているコラムだが、こちらは大先輩の達人。社内報やPTA関連でちょっとした読み物を書かなければならない人にもヒントになるのでは。普段、新聞を読まない方は「文春」ではなく「春秋」なのでお間違いなく。

お薦め度 

ポイント

・大文字と小文字

・コラムの中の作家

・文章作法

大文字と小文字

 新聞の1面コラムを読んだことがあるだろか。本書の日経は「春秋」。朝日新聞は有名な「天声人語」、毎日は「余禄」、読売は「編集手帳」、産経は「産経抄」。地方新聞には「水鉄砲」「水平線」などもある。

 社説と1面コラムは家族。でも少し性格が違う。筆者は大文字と小文字として違いを表現する。どちらも社会評論や時事批評をするのだが、コラムはいきなり大上段には構えず、なるべく目線を低くして、やさしい言い回しで紡ぐ短文。「小文字」と言ってもテーマは大から小までさまざま。どんな話であれ、読者の目を引きやすく、口に入りやすい導入を用意して、短いなかにも変化を持たせて面白く感じてもらうよう工夫している。「説く」のでなく、「語る」。「理」でなく「情」で人をうなずかせる。

だから、良質のコラムは文章づくりの参考になる。

コラムの中の作家

 コラムへの登場機会が多い作家がいる。真っ先に上がるのは向田邦子。これはさまざまなコラムに登場している。太宰治阿久悠も定番中の定番。最近は登場が少ないが池波正太郎も人気だ。

 映画界では小津安二郎である。本書でもやはり登場する。小津は世界的に評価の高い映画監督だが、作品は庶民目線。大きなドラマを起こらないし、英雄は誰も登場しない。同じ巨匠でも黒澤明は「大文字」小津は「小文字」というわけだ。もっとも黒澤もコラムには登場するが。今年は小津の生誕120年。カンヌ国際映画祭で役所広司が男優賞を受賞したことで話題になった「パーフェクトデイズ」の監督(ドイツの巨匠)が、小津ファンを公言している。小津の登場機会はますます増えそうだ。

 さて、あなたなら誰を登場させるだろう。私は愛読している田中芳樹か音楽家の小室哲哉、映画なら小津もあるかもしれない。

文章作法

 こうすれば誰でもかっこいい文章が書けるというものはなかなかないが、「痛点」ははっきりしているらしい。

 その中でも重要な要素に挙げているのが「短く伝える」「語彙力が勝負」。逆に言うと、ダラダラ長い文はダメだし、語彙力が少ないのも困る。語彙力があれば言葉の重複を防げる。同じ言葉が続くのはあまりかっこうよくないし、読みにくい。「見る」なら「目にする」「目にとめる」「目撃する」「食べる」なら「口にする」「味わう」「箸をつける」など言い換えが可能だ。

 紋切型にも要注意とある。「目を細める」「ほくほく顔」。使いたくなるけど、あまり使わない方がよさそうだ。

「神は語尾に宿る」ともある。語尾が「だ」と「である」だと意味は同じなのに、少し与える印象が変わってくる。この辺をうまく操作できるか。ぜひ、細部に意識して書いてみて欲しい。私も実践したい。

編集後記

 文章術系の本はたまに読む。やはり、職業柄気になる。若い頃よりも経験を積んだ今の方がより気にしている。文章は日本人1億人が総評論家。誰でも書けるけれど、上手に書くのはかなりハードルが高い。その割に上達しているかどうか分かりにくい。文章を書く作業はやっかいで、楽しくて、際限がない。同種の本では「『編集手帳』の文章術」(竹内政明)もお薦め。

 

 

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