欲しい未来を手にする方法

「社会を変える」のはじめかた(横尾俊成)

 「社会のために役立ちたい」と考える人は日本でも7割近くいる。社会起業家やNPO,ボランティアの活動、仕事を通じて世の中をよくする方法を考える人は増えている。一方で、政治に関わりたいという人は4割にも満たない。「今の政治家に任せておけばいい」という人は3%しかないのに、6割は自分は関わりたくないと答えている。これで社会は変わるのか。欲しい未来を手する方法論を示した「社会を変える」の入門書

一部「はじめに」より

何か納得いかないのに、モヤモヤしながら過ごしている人へ。もしかしたら、モヤモヤすることさえ忘れ、こんなものかと思ってしまっている人にも。今を変えられるのは今を生きる私たちだけ。そして、変える方法はきっとある。そう思いたい人、実践したい人にお薦め。

お薦め度  

ポイント

・なぜ声は届かないのか

・政治家は必要か

・政治の使い方

なぜ声は届かないのか

 「民意が政治に反映されない」「自分たちの声が届かいない」。少しでも政治、社会に関心のある人なら感じることがあるはず。筆者は東京の区議会議員。この原因が政治のシステムにあると言及している。一つは決定プロセスの複雑さ。首長や行政職員が長い時間かけて作り上げた政策を議会で審議する。細かい手順があり一つの手続きも飛ばすことができない。

 予算を決めるのは年に1度(補正で途中でも決めるが)。期日までにはっきりしないと、予算がつくのが1年遅れる。その過程のやりとりはすべて書類ベース。議事録も紙ベースで残す。本当に必要な政策かをふるいにかけるには、冗長とも思えるプロセスも必要かもしれない。だが、素早く対応しなければ大きな損失を生み出すことだってある。

 そもそも行政は新しい施策を敬遠する風土がある。予算カット、職員の減少が続く中でも、やるべき問題の量は減らない。むしろ増えている。そんな中で、一度新しい前例をつくると減らすことが難しい。必然的に施策を増やすことには抵抗が生まれる。

 何より政治や行政に意見しない大多数の声「サイレントマジョリティー」を拾う仕組みがない。かつては団体の声を聞けば住民の声を聞くことになっていた。そうでなくなった今、埋もれた声を聞く「窓口」がないのである。行政がパブリックコメントで意見を求めることもあるが、すでに案の大枠は決まっていて、根本的に変えるのは難しい段階になっている。

政治家は必要か

 政治家の中にはリーダーとしてすべて自分で方針を考えて「自分についてくれば幸せな社会になる」と引っ張っていこうとするタイプが少なくない。有権者の側もそんな人を求める場合がある。しかし、政治家一人で考えられることなどしれている。

 一人一人の生活者は自分の暮らしの専門家。それぞれ「こうしたい」という希望を持っている。そのアイデアを聞いて、スパイスを加え、大まかなビジョンや政策を考える方が建設的。意見を吸い上げてもまったくの「ゼロベース」ではまとまらない。一定の方向性を示したり、コアになる考え方を出したり。みんなの知恵をうまく引き出し、まとめる。そして、実現する。政治家には編集力が求められている。

政治の使い方

 日常で感じるこまりごとの先には政治がある。政治を使いこなせないと解決は難しい。

 議会に提案する正攻法は「陳情」と「請願」。陳情は住民からの意見として直接議会に提案する。請願は1人以上の議員が紹介議員となって提案する。請願はイエスかノーか、議会が一定の結論を出す必要がある。判断が難しい場合は「継続」として審議が終了するケースがある。

 正攻法はハードルが高いという人は、行政の意見募集に投稿したり、議員に直接メールや電話する。実は議員も市民と話したいと思っている。自分を支持してくれる人を増やすためにも、積極的に会おうとするはず。今はSNSなどを通じ、コンタクトをとるのはより簡単になっている。

 目の前の困っている人を助けるにはNPOのサービスをつくって対処すればいい。でも、困っている人を生み出す構造を変えるには制度を変えないといけない。ではそのためどう政治を動かすか。投票、政策提案、いっそ自身が政治家になるか。いずれにせよ、人に「お任せ」だけでは望む未来は手に入らない。

編集後記

 選挙の取材をしていると、一般の人の関心の低さを痛感する。国政や県議選だと近く選挙があること自体も知らないケースが多い。投票に行っている人でも「議員が何をやっているか分からない」「誰が議員か知らない」という声はよく聞く。議員も活動の成果をもっと報告すべきだが、市民も自分で情報を取りにいかないと、知らない間にいろいろなことが「勝手」に決まってしまう。この本はちょっと動いてみたい人を後押ししてくれるはずだ。

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