夏への扉(2021年、日本映画)
ロバート・A・ハインラインの名作SF小説「夏への扉」を、日本で映画化。舞台を米国から日本に移して再構築し、人生のすべてを奪われた科学者が時を超えて未来を取り戻す姿を描く。1995年、東京。ロボット開発に従事する科学者・高倉宗一郎(山崎賢人)は、亡き父の親友だった偉大な科学者・松下の遺志を継ぐプラズマ蓄電池の完成を目前にしていた。愛猫ピートと松下の娘・璃子(清原果耶)との穏やかな日常の中で、研究に没頭する宗一郎だったが、信頼していた共同経営者と婚約者に裏切られ、自身の会社も開発中のロボットや蓄電池もすべて奪われてしまう。さらに宗一郎は人体を冷凍保存装置に入れられ、2025年の東京で目を覚ます。
映画公式サイトより
原作が面白かったので、映像化、それも時代も国も変えての作品は非常に心配でしたが、十分楽しめる作品。映画館で観るのはきつくても、テレビで観るには十分。大人から子供まで楽しめます。厳しい目で観ていたのに楽しめたというのはそれなりのレベルということか。
お薦め度
SF古典を大胆アレンジ
原作はタイムトラベルものの最高傑作ともいわれるSFの古典。これを日本を舞台に時代も変えて映画化する。絶対コケると思っていましたが、アレンジ具合もなかなかよくて最後まで観られました。冬になるときまって夏への扉を探す愛猫ピートの設定なんかそのまま。時代も1970年の米国を、95年の日本に移しているけれど違和感はなかったです。生まれる前の70年より当時を知る95年の方が感情移入できるのも大きかったかもしれません。映画館で観るほどではなくても、家庭でドラマを楽しむには十分です。
タイムマシンの違い
タイムマシンものにはさまざまな形態があります。ノリ・メ・タンゲレでは意識だけが過去の人物の脳波に飛びましたが、誰もが知っているドラえもんではタイムマシンごと時間移動し、過去だけでなく未来へも行けます。バックトゥザフューチャーも確か、過去にも未来にも行けたはず。夏への扉では、本人の体だけが過去に行きます。じゃあ、未来にはどうやって戻るのか。時間はどんどん未来に進んでいるので、何年か何十年か待てば元いた未来はやってきますが、それでは歳を取ってしまいます。そこで、キーになるのが冷凍睡眠。例えば不治の病だけれど、医療が発達した未来なら治せるかもしれない。そんな人が利用する(もっとネガティブな理由で利用する人も)という設定です。
タイムマシンものはちょっとしたことを見逃すと、辻褄が合わなくなります。冷凍保存装置に入れられた主人公は、目覚めた未来でタイムマシンを使って過去に戻ります。一件落着となって未来に戻る際、冷凍保存装置を使用して元いた未来が来るのを待つわけですが、現代(過去)の自分は変わらずいて、別の冷凍保存装置に入っている。あれ、じゃあ30年後も冷凍装置から出た主人公は2人いて、その先どうなるの?観終わってから気になりましたが、作中では説明していたのかもしれません。
原作もぜひ
原作はSFの古典。1956年に発表された作品のようです。僕が持っているハヤカワ文庫版は1979年の発行、96年で41刷。文化女中機(家事用ロボット)なんて訳や文体も少々古く感じるかもしれませんが、内容、小説の構成力はさすがです。
当時の未来だった2001年はかなり科学が進んでいると想像されていたようです。風邪が一掃され、重力制御法も開発されています。重い物質も力をほとんど使わず、遠くに運ぶことだってできる。2022年もそこまでは進んでいません。それどころか、新型コロナに世界が振り回されている始末。僕も21世紀はもっと夢のような未来が待っていると子供の頃は思っていましたが、全然違いますね。スマホなんかはSFで出てくる電話よりはるかに高性能ですが。
とにかくSF好き、そして愛猫ピートの描写に癒されるネコ好きにお薦めの1冊です。