小説を深く読みたい方へ|天気の好い日は小説を書こう

処方

天気の好い日は小説を書こう(三田誠広)

高田馬場のあのW大学で人気の、愛と笑いに満ちた「小説創作教室」。講師は芥川賞作家の三田誠広。小説は書き手の自己満足の手段であってはならない。小説は他者へのメッセージであり、想像力を媒介とした魂と魂のコミュニケーションの場なのだ。だからある種の気分の高揚が必要。心が弾む日、天気の好い日は小説を書こう。

いい小説が読みたい人に。文学論の教科書。こんなに深く読むものなのかと読書感も変わるかも。

お薦め度 

効能・注意

・小説とはリアリティー

・本来の日本語

・小説の構造

小説はリアリティー

 小説と物語の違い、分かりますか?昔の物語は荒唐無稽のものが多い。それに対し、近代小説はリアリティーに支えられています。夢物語でなく、現実にありそうな話。スーパーマンでない、どこにでもいるような人が主人公で、その主人公がなかなか実現できない欲望を持ってしまう。そのことによって苦しみ、悩み、壁にぶつかる。その行動が読者とどこかでつながる。人生の一種のシミュレーションですね。

 ただし、リアリティーとは身辺雑記的なものを指すのではありません。「本当らしさ」を意味します。例えばSFにもリアリティーがあります。「ET」なんかは社会問題をとらえたリアルな映画です。主人公である子どもは、両親が離婚していて父がいません。冒頭のシーンは、母が働きに出ていて、子どもだけで晩御飯を食べる。離婚率が高いアメリカの現実を反映しています。子どもたちは相談してピザの出前をとる。そのわびしさがリアルなんです。

 小説や映画の深い見方が解説されています。

本来の日本語

 小説どころか、私たちは日本語の書き方を学ぶ機会はほとんどありません主語がないのが日本語の特徴です。どうしても必要な時以外は、主語を徹底的に省く。英語をよく勉強した人の中には、主語がないと不安になる人が多いはず。代名詞も使いません。「彼」「彼女」は外国語翻訳のために無理につくった言葉で、もともとの日本語には存在しません。冠詞も使わない。「その」なんかはそうですね。その机とか。机でいい。複数形もどうしても必要な時以外使わない。無生物主語もありません。「その暑さが私をいらだたせた」。これは英語なんですね。「暑かったのでいらいらした」が日本語です。

 こうしてみると、英語的な日本語が氾濫していることが分かります

小説の構造

 物語にはいくつかの構造があり、近代小説にも取り込まれています。父と子の対立と和解。これは志賀直哉の「和解」という作品もそうだし、それこそ映画「スターウオーズ」なんかもそうですよね。男女の出会いと別れ。三角関係なんかもそう。「マザコン」は父の子の対立と和解の物語のバリエーションですね。こうした構造と私小説の切実さの重なる部分があれば、うまく取り入れると作品が深くなるのだとか。

 四コママンガだけでなく、小説にも映画にも起承転結(順番は違っても)があります。自分の好きな映画のファーストシーンを思い出せるでしょうか。ほとんどの人は映画を見る時にあらすじしか見ていないので、なかなか思い出せない。ストーリーをいきなり始めず、その時代の風景や主人公の個性なり存在感が見てくるようなシーンを冒頭におく、これだけで読者は作品の中にスムーズに入っていく。そんな仕掛けがあるはずです。

 セカンドシーンで、状況設定を明らかにし、主人公がどのような「欲望」をもっていて、何が「壁」として立ちはだかっているのかを、具体的なイメージで描く。続いて山場、ラストシーンです。

 小説では「孤独」とか「驚いた」とかは直接使いません。シーンで表現するんですね。映画「ロッキー」で、ロッキーがトレーニングで走るシーンは、汚い下町とか、電車が上をガ―ッと音とを立てて走るガード下とかが出てきます。ロッキーの「孤独」「貧しさ」が画面から伝わるようにしているわけですね。

 実際の地名をいれるだけでもリアリティーが増します。地方都市の名前を入れてた〇〇駅前のパルコなんかは田舎感が出ます。田園地帯だけが田舎ではない。むしろ、都会的なものが田舎にある方が田舎の寂しさを表現できます。まあ、和歌山にはパルコさえないですけど。

 このような点を注意してみると、小説や映画がより深く楽しめるはずです。

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