ふがいない僕は空を見た(窪美澄)
こんな話
高校1年の斎藤君は、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけでなくなってきたことに気づくのだがーー。姑に不妊治療を迫られる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを描いた連作長編。作者は最近、直木賞を受賞しています。
手に取りにくい作品
この作品は「女による女のためのR18文学賞」大賞受賞作。と言われると男性は少々手に取りにくいところもありますが、そうと知らずにタイトルに引かれて購入しました。連作長編ですが、冒頭の作品は少し苦手意識がありました。高校1年の斎藤君が、年上の主婦とセックスを重ねる話。主婦のアニメ趣味に合わせてコスプレしてプレーします。その描写がちょっと無理かもと思いながらも、男の子の視点がよく描けていて最後まで読み切りました。助産院を営んでいる母親との関係もいい。彼女でもいるのかと察した母親が、机の上にコンドームを3箱を置いている。「自分の親にコンドーム用意してもらう息子がどこにいるんだよ」。僕の世代では考えられないことですが、最近の子ならこんな場面もあるのかも。これに類する話を聞いて驚いています。
連作の深み
冒頭の作品だけだと、そこまで評価は高くなかったかもしれません。でも、そこが連作の凄さ。2本目の作品は斎藤君をセックスに誘った主婦の話。なぜアニメに傾倒していくのか、学生時代から辛い思いを抱え、今は姑に不妊治療を迫られています。自身は子どもを望んでいるわけではないのに、求められる重圧。不妊の女性と助産院の息子。その対比もいい。斎藤君に好意を寄せる同級生の女子高生は、胸が小さいことと性体験がないことが悩み。兄が新興宗教にはまっていって…とみんな何かしらやっかいごとを抱えています。抱えているやっかいごとそのものは同じではないけれど、「そうだよね」と読者に実感させるリアリティ、説得力を感じます。
悪いことはずっと続かない
基本的にちょっと影のある話が多いのですが、漢方薬を扱うリウ先生の言葉が響きます。「悪いことはずっと悪いままではないですよ。いいことも長くは続かない。悪い出来事もなかなか手放せないのならずっと抱えていればいいんです。そうすればオセロの駒がひっくり返るように反転するときがきますよ。いつかね」。人生にまとわりつくやっかいなものは、なかなか捨てられないけれど、それでもちょっとした光もある。そんな気持ちにさせてくれる作品です。