今こそジャーナリズムが必要と感じている方へ|世界8月号

処方

世界8月号 特集ジャーナリズムの活路(岩波書店)

効能・注意

・なぜ、メディアはピンチなのか

・ジャーナリズムの原則とは

・これからのメディアとは

こんな内容

 2010年に5千万部を割り込んだ新聞の発行部数は、2001年には3300万部にまで減少した。あまりに急激な縮減の軌跡を、今テレビ業界も追いつつある。メディアを存続させてきた既存の収益構造が崩れ、リストラが続く。メディアの変革は不可避だが、決め手に欠けている

 メディアの縮小とともに、ジャーナリズムまでが消滅に向かっていいはずはない。この社会で何が起きているか調査・報道し、権力を監視するジャーナリズムは、民主主義社会のインフラである。デジタル化の波が押し寄せる中で、ジャーナリズムの活路はどこにあるのか。普段は見向きもしない雑誌だが、仕事の関係上、思わず手に取った一冊。

なぜ、メディアはピンチなのか

 インターネット、デジタル化によってジャーナリズム、メディアの世界で何が一番変わったのか。それはプラットフォーマーの成立です。日本ならヤフーですね。本誌の特集によると、ヤフートップページのPV数は月間200億PV以上。何かと話題になっている文春オンラインでも3・5億PVなのでいかにけた違いがかか分かります。うちの新聞社などは足元にも及ばないということさえ、はばかれるほどの差があります。

 うちに限らず、全国の新聞社がプラットフォーマーに記事を渡してしまいました。それも嬉々として。なぜなら、プラットフォーマーに記事を出すネット担当部署は、会社の中では端っこの部署全社的にプレゼンスを発揮できる唯一の機会が「ヤフーと仕事している」のちには「ラインと仕事している」だったからです。経営陣はネットにうとく、プラットフォーマーに記事を出してしまうことが致命的な意味を持つことを認識していませんでした。

 プラットフォーマーには各社の記事が載ります。どこの発信かはあまり関係がなくなります。ブランドの喪失です。ニュースも出した時点で価値が急降下します。各社が続けてネットに上げられるし、さまざまなにシェアされて人々が媒体の中身にお金を払うことはないからです。

ジャーナリズムの原則

 ジャーナリズムは必要なくなるのかというと、そんなことはないはず。むしろこれだけ少子高齢化、分断化が進み、社会が変動していく中で、必要性は増しているのではないでしょうか。

 ジャーナリズムの三原則と言われるのが①公権力の監視、②客観的な事実の追求、③弱い立場の当事者への寄り添いーです。イベントの発信は地域活性化にもつながり重要ですが、市民にもできます。お悔み情報も葬儀社ネットワークで発信が可能でしょう。でも①は職業記者でないとハードルが高い。ここにどれだけ価値を生み出せるか、またその価値を見出してもらえるか。それともマスゴミと切り捨てられるか。日本中の多くのメディアがいま、瀬戸際になっているのではないでしょうか。

これからのメディア

 すでに独自路線を走って成功しているメディアは、プラットフォーマーに頼っていません。英エコノミストもニューヨークタイムズもプラットフォーマーに記事は出していないし、自分たちのコンテンツを無料で見せるというようなことはしていません。日本で無料の電子版をやめ、いち早く有料路線に切り替えたのが日経新聞です。日経電子版には「前うち」記事はないそうです。日経電子版でなくては読めないような独自のアングルの記事が主軸となっています。ちなみに「前うち」とは、行政や警察を回ってとってきた「情報」やペーパー。独自の見方や発見があるわけでなく、将来発表されることを先に書いているというパターンです。今はそっちに力を入れている新聞社が多いのが現状です。

 独自のアングルの記事主体への転換。それって、地方のメディアにもできるのか。特集で紹介されていたのが、鳥取の中海テレビ放送。米子を中心としたケーブルテレビ局ですが、1989年の開局以来増収を続けているそうです。大きな理由は、開局時から地元のニュースを独自に取材して流す専門のチャンネルを作ったこと。ニューヨーク・ワンというアメリカの地域ニュース専門チャンネルを参考にしたそうで、経営者の先見性がうかがえます。

 現在の報道部の人数は総勢で15人。地方新聞のうちの会社より少ない。1人で取材、カメラ、編集まで行うビデオジャーナリスト方式で、朝、昼、夜の番組に流すニュースや特集をつくっているそうです。「地域課題の解決になるようなシーズ(種)を探して、それを解決しろ」というのがテーマ。実際に報道を機に、課題が解決された事例があり、多くの地方メディアの参考になりそうです。

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