戦争まで(加藤陽子)
こんな内容
日本はなぜ戦争の道を選んだのか。かつて日本は世界から「どちらを選ぶか」と3度、問われた。1939年の満州事変に対して、国際連盟から派遣された調査団が作成したリットン報告書を巡る交渉。1940年の日独伊三国軍事同盟条約締結。1941年の日米交渉。より良き道を選べなかったのはなぜか。中高生を対象にした講義形式で解説する。
戦前も戦中も戦後も地続き
戦争って始まりも終わりもあるけれど、その前後と全く別の時代ではなく、地続きです。戦前には戦争につながる要素があるし、戦後も当然戦争の影響を受けています。今はもうあまりないと思いますが年号を覚えるのが歴史ではなく、こうした流れに学ぶのが歴史。その基本が伝わる作品です。現代が後に「戦前」と呼ばれないために。私たちに何ができるのか。考えさせられます。
前作の「それでも、日本人は戦争を選んだ」が滅茶苦茶面白かったので、加藤さんの2作目として購入。前作も同じような講義形式で進むのですが、どちらも受講する中高生が頭がよくて、こんな学生が世の中にいるのかとそちらにも驚かされます。
なぜ選択を誤るのか
2014年の衆院選での憲法改正について調査したところ、有権者の賛成派(どちらかといえばも含む)が33%だったのに対し、当選議員の賛成派は84%に達しました。これは憲法改正だけではなく、一つの政策項目に対する有権者の意向と、当選議員の意向の間に大きなずれが生じています。ここでまず、選択がずれてきそうです。
選択という行為は、さまざまな制度の制約を受け、国際環境や国内政治情勢の影響下でなされます。国や個人が選択を求められる場合に重要なのは、問題の本質が正しい形で選択肢に反映されているかどうかです。この辺が詳しく掘り下げられていて、単に過去を知るだけでなく、現代社会の中で交渉ごとに当たる際のヒントが学べるはずです。
歴史を曲げる説
子どもの頃からよく聞かされ、今も根強く信じられているこんな説があります。第二次世界大戦時、アメリカはかねてから欧州の戦争に参戦したいと考えていたが、戦争に消極的な世論に苦慮していた。そこで、大統領らは日本による真珠湾攻撃の予兆を暗号解読によって知りながらも、あえて日本が奇襲攻撃を行うのを待ち、国内世論を戦争へと燃え立たせたのだと。日本ばかり悪いんじゃないよというわけですね。
こうした解釈は歴史的には支持されていません。日米交渉の始まり、交渉内容、日米双方の思惑を史料から見ていくことで、だんだんと否定されていきます。そもそも、日本側もアメリカ側の暗号をかなりの精度で解読し、手の内を知りつつ交渉に臨んでいたことも分かってきました。アメリカの国防総省は、なぜ真珠湾攻撃を防げなかったのか、戦後も研究を重ねています。