ジョーカー・ゲーム(柳広司)
こんな話
結城中佐の発案で発案で陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校「D機関」。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。この戒律を若き精鋭に叩き込み、軍隊組織の信条を真っ向から否定するD機関の存在は、当然猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く結城は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げてゆく。スパイミステリー。
死ぬな、殺すな
「殺人、及び自決は、スパイにとって最悪の選択肢だ」。結城中佐は指導します。軍人の常識を大きく覆す発言です。軍人は敵を殺すこと、自ら死ぬことを受け入れた者たちの集団だったからです。しかし、スパイの行動はすべて極秘。死はどうしても注目を集めてしまう。無意味で、バカげた行為でしかないというのです。
従来のスパイ像とはずいぶんかけ離れていますよね。派手なアクションも本来は必要ないもの。D機関では格闘術、生存術も学びますが、それを駆使しなければ生き残れない状況は、スパイにとっては、死ぬ、殺すに次いで、最悪の状況です。でも、最悪の状況であるからこそ、そのための準備を怠ってはならない。D機関の教えは、仕事にも通じる部分もあります。
超人的な能力
D機関の選抜試験は奇抜です。建物に入ってから試験会場までの歩数、及び階段の数を尋ねられた者は、正確に答えるだけでなく、途中の廊下の窓の数と開閉状態、さらにひび割れの有無まで指摘します。世界地図を広げてサイパン島の位置を尋ねられた者は、その地図から巧妙にサイパン島が消されていることを指摘すると、今度は広げた地図の下、机の上にどんな品物が置いてあったか質問されるのですが、十種類ほどの品をすべて正確に答えた上に、背表紙に記されていた本の書名から、吸いかけのタバコの銘柄まで当ててしまいます。
僕の席は会社の2階にあり、毎日階段を上っていますが、何段あるかなんて分かりません。20段ちょい?今度数えてみようかな。
スパイは孤独
スパイは世界各地に散らばって、自らを見えない存在にしなければなりません。十年、二十年、あるいはもっと長く、見知らぬ土地に一人とどまり、その土地に溶け込み、見えない存在となって本国に情報を送り続ける。誰にも自分が何者か知られず、状況が変化しても誰とも相談することができない。スパイがその存在を知られるのは、任務が失敗したとき。「孤独と不安。やがて自分自身の存在すら疑わしく思えてくる」。それでも任務を遂行できる人は安っぽい自己顕示欲ではなく、それでも自分ならできるとうちに秘めたプライドを持つ人なんでしょうね。