後宮小説(酒見賢一)
こんな話
素乾国では先帝が腹上死し、新たな皇帝が生まれたことで、後宮に全国各地から娘が集められていた。主人公の田舎娘、銀河もその一人。食事付きで快適な暮らしができると深く考えずに応募した銀河は、物おじせず、女大学の奇抜な講義を収めると、見事に正妃の座を射止める。ところが、反乱が勃発し、銀河は後宮軍隊を組織して反乱軍に立ち向かうはめに。国の行方、皇帝との生活はどうなるのか。第一回ファンタジーノベル大賞受賞作。
ファンタジー小説とは
ファンタジーノベル大賞が始まったのは、僕が中学か高校の頃。読売新聞紙上に大々的な広告が掲載されたのを覚えています。当時、ファンタジー小説と聞いてイメージしていたのは、ドラゴンクエストや指輪物語のような世界。実際それっぽい小説がきれいなイラスト付きで人気を集めていましたが、僕はそこまで関心はありませんでした。
ところが、大賞を受賞したのは中国を舞台にした歴史小説。しかも、舞台は後宮。「これがファンタジー」と度肝を抜かれ、しかも、リアルな歴史考証がありながら、こんな国は中国に存在しないということにも驚かされました。今でこそ中華ファンタジーは流行ですが、それらとも一線を画す作品です。
学園ものの魅力
作品には歴史ものだけでなく、学園ものの雰囲気もあります。中国各地から集まった身分も文化圏もさまざまな若い女性が、寮生活をしながら女大学で学びます。ただし、学ぶ内容は房中術。古代中国では男女の交合によって不老長生を得ようとする技法が真剣に考えられていたとか。そんな効能があるのかは別にして、性欲は本能ですが、性行為は学習によって身につくものかもしれません。
ただ作中の人物はこうも言います。「昔話に歩き方を教わろうと仙人を訪ねた男が、練習しているうちにもとの歩き方を忘れ、結局歩けなくなったという話がある。つまり、習わなくていいことを習うのは害のあることだという意味だ」
戦記物の魅力
反乱軍の正体は退屈しのぎで戦いを始めた田舎のやくざの集まり。国をひっくり返そうなどと思ってもいなかったのに、だらしない国の対応やさまざまな偶然によって快進撃が続けられます。迎え撃つ後宮軍はもちろん、全員が素人。歴史上にもそんな軍隊が存在したことはありません。銀河の考える作戦は果たして通用するのか。三国志などの戦記物好きも楽しめます。
さらに、銀河は「学びの成果」を皇帝とともに発揮できるか、国の行方はどうなるか。後半の怒涛の展開は波瀾万丈の銀河伝記として楽しめます。