河よりも長くゆるやかに(吉田秋生)
こんな話
米軍基地のある町。男子高校生のトシ、深雪、秋男の3人組は、結構シビアな現実を抱えながらも、能天気にナンパしたり、大麻を吸いたがったり。ちょっとはみ出してはいるけれど、高校生らしい、高校生にしかできない時間を過ごしていく1980年代の、りりしく、しぶとい青春物語。小学館漫画賞受賞作。
ドタバタ劇のようでしんみり
トシは姉と二人暮らし。父親が外に女性を作ったことが原因で両親は離婚していて、母親に引き取られましたが、母親はその後1年ほどで亡くなってしまいました。父親からは養育費を受け取っているものの、姉は当てつけのように水商売に入り、トシも米兵相手のゲイバーでバイトしています。
こうした背景があるため、ドタバタ劇あり、下ネタあり、それなのにしんみりさせられるシーンも多いです。戦闘機が飛ぶ音がうるさくて、会話が途切れたり、姉が米兵と付き合っては傷ついたり。基地の町ならではの光景もふんだんに出てきます。
ただ、主なシーンは今も昔も変わらない男子高校生の青春劇。女性に興味津々で、セックスのことばかり考える、今はちょっと違ってきているかもしれませんが。
タイトルが秀逸
河は通常上流の方がきれいで、下流になるとどんどん汚れてきます。しかし、海には近づきます。トシのセリフが秀逸で「(河は)最初はきれいかもしれないけれど、流れも急だし、幅も狭い。でも、海に近くなると汚れはするけれど、深くて広くてゆったりと流れるじゃないか」。どちらがいいかは、好み次第。人生を河の流れに例えたタイトルの意味を知ると、作品の深みがグッと増します。
時代を感じるセリフ
3人組が冗談で芸能界デビューできないかなと話すシーン。「ジャリーズ事務所(ジャニーズではありません)ってIQ60以上はとらねえっていうじゃん」「そうじゃなきゃ、17にもなった男があんな妙ちきりんな格好してケツ振ってられっかよ」。今のその事務所はずいぶんと変わって、アイドルも幅広い分野で活躍していますが、当時の見られ方はこんな感じだったのかなと。
デートで見に行った映画が「ジェダイの復讐」「インディージョーンズ/魔宮の伝説」の二本立てというのも時代を感じますね。すごい豪華な二本立て。