脇役が好きな方へ|悟浄出世

処方

悟浄出世(中島敦)

効能・注意

・脇役が好きでも変ではありません。

・妖怪の悩みに共感できます。

・西遊記と聞いて堺正章を思い浮かべるか、香取慎吾を思い浮かべるかで世代間ギャップが生まれます。

こんな話

 西遊記孫悟空や猪八戒とともに、三蔵法師に使える妖怪・沙悟浄が主人公。まだ、三蔵法師に出会う前、流沙河(りゅうさが)の底に住んでいた沙悟浄は「自分とは何か」という疑問を持ち、悩み続けていました。その謎を解明するため、賢人と呼ばれるさまざまな妖怪に会いに行きますが、なかなか納得する答えは得られない。中国の古典を題材にした純文学。

脇役が好き

 子どものころ、少年ジャンプでたまにキャラクターの人気投票があったのですが、大抵主人公が1位になります。「これはやらせではないか」。小学生の僕は結果に納得できず、そんな疑いを持っていました。

 北斗の拳ならケンシロウより、トキやレイキャプテン翼なら翼より、若林や岬、何なら新田スラムダンクなら花道より、流川や三井、何なら藤真がお気に入り。ヒロインにも当てはまることがあり、タッチの国民的アイドル・浅倉南より新田由加という具合です。

 脇役とともに外伝、スピンオフも大好き。西遊記でも一番人気は孫悟空なのでしょうが、僕の推しは沙悟浄。それが主人公の小説があるなんて、たまたま全集の中で見つけて驚きました。脇役によるスピンオフ作品。僕にとって面白くないわけがありません。

賢人たちの名言

 沙悟浄が訪ねる賢人(変人)たちは、それぞれ個性的な名言を放ちます。「自己だと?世界だと?世界とは自己が時間と空間の間に投射した幻だ」「幸福というのは空想の概念だけで、決してある現実的な状態をいうものではない。はかない希望が名前を得ただけだ」。これらはちょっと暗い気持ちになってしまいますが、一理あるかなとも思えます。

 一番印象に残っているのは時を論じた名言。「時の長さを計る尺度が、それを感じる者の実際の感じ以外にないことを知らない者は愚かだ。人間の世界に時を計る器械ができたそうだが、のちのち大きな誤解の種をまくだろう」。時間は誰にでも同じでなく、一人ひとり違う。深い。

さらに続編

 悟浄出世には続編があります。悟浄歎異。これも不思議な作品で、沙悟浄が一緒に旅をする孫悟空ら仲間の様子を観察し、尊敬する話です。悟空が猪八戒に変化の術を教えるシーンなどは、西遊記ってこんな話だっけと思いながらもにんまりしてしまいます。スピンオフの続編という設定だけで楽しめます。そういえば、西遊記は子ども向けの本しか読んでいないかも。今度、しっかりした西遊記にチャレンジしてみようかな。

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